『振られない軸』と聞いて、全身の筋肉をギュっと固めることを想像していませんか?
果たして、全身カチコチに固まった筋肉でプレーはしやすいでしょうか。
走った時やパスやキャッチの瞬間など、カチコチに固めた筋肉ではうまく身体を動かすことができないでしょうし、関節の可動域も狭くなり、ケガにつながる恐れもあります。
『振られない軸』を作るためには、ギュっと固めた筋肉ではなく、必要最小限の筋力を使って体をコントロールすることが重要です。
では、ストレッチをして筋肉を柔らかくすればいいのでしょうか?
例えば、もも裏のハムストリングが固い場合の改善策として、ストレッチを思い浮かべることが多いでしょう。
単純に筋肉の長さが『短くなって固い』場合はストレッチも有効ですが、過緊張によって筋肉の長さを『短くしてしまっていて固い』場合は、果たしてストレッチで改善するのでしょうか。
筋の過緊張が起きている場合、それに逆らってストレッチをすることは、例えるならアクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなものなので、身体に負担がかかる可能性があります。
例としてハムストリングをあげましたが、それ以外の全身でこのような筋肉の過緊張が起きている場合、パフォーマンスアップするために必要なのは筋肉の過緊張を抑制する(リラックス)ことです。
筋緊張を解くにはどうすればいいのか?
◆脳を安心させる
運動動作(筋肉の動き)だけではなく、その前にどのように情報処理されているのかを考える必要があります。
情報処理をしている脳が、『危険!』と判断した場合、筋肉の緊張を起こしたり、めまい・吐き気・痛みなどで活動を中止させようとしたりします。
脳が危険と判断するのは、もともとは身体を守るための大事な機能ですが、それが過剰に反応をしてしまうのです。
例えば、断崖絶壁の10cmしかない足場を歩く時、脳が危険と判断して落ちないように筋肉を緊張させ身体の安全を獲得しようとします。それが日常生活においても、常に断崖絶壁を歩く時と同じような危険という認識があった場合、脳は筋緊張を起こしてしまいます。酷い場合は、日常生活でめまいや吐き気、痛みなどを感じる可能性も。
そのため、まずは脳を『安心』させる必要があります。
脳を安心させるためには、『自分がどこにいるのか(自己定位)』を知ることが大切です。
自己定位させるためには、どうすればいいのでしょうか。
『ボディマップ』といわれる、『脳の中にある身体の地図』を正確にする必要があります。自分の身体がどのような構造で、どのように動くのかを知ることで、『自分自身がどこにいるのか?』を理解します。
ボディマップがあいまいだと、身体の輪郭もあいまいで、手足を動かすイメージがわかりにくくなります。例えば、パスを受けた時に手が届くと思ったら、思ったよりも遠くにボールがあったということはないでしょうか。
ボディマップが明確だと、身体の輪郭がくっきりとしていて、思うように身体を動かすことができます。先ほどの例えだと、パスを思った位置でキャッチすることができるでしょう。
ミスマップはなぜ起こるのか?
・構造のミスマッピング
関節の位置や臓器の位置を誤解することで起こります。
身体のイメージが事実と異なっていても、イメージが優先されて動こうとしてしまうため、構造をイメージで理解できていない場合は、誤った動きを日常的に行ってしまう恐れがあります。
例えば、肩の動きを「肩甲上腕関節」だけで考えてしまうと、いわゆるアウターマッスルが優位に働いてしまい、首肩の筋緊張が高めてしまうことがあります。
肩の動きには、「肩甲上腕関節」のほか、「肩甲胸郭関節」「肩鎖関節」「胸鎖関節」が関わるため、鎖骨の動きが非常に重要です。
・サイズのミスマッピング
成長期に多く、急成長をして身体のサイズ・形に大きな変化が起こる時に、ボディマップが書き換えられないままでいることで起こります。
マップは、動きと接触の経験により無意識に書き換えられますが、現代社会では、成長期に子供達は学校の教室で長時間を過ごすため、書き換えられないまま成長してしまうことがあります。
ゲームやスマホを使って過ごすのではなく、外で遊び友達と触れ合うことが非常に重要です。
・ケガでのミスマッピング
ケガをした場合、その場所のボディマップは崩れてしまい、あいまいで輪郭も不明瞭になります。ケガをした後のリハビリとして、ボディマップを再構築する必要があります。
ボディマップを書き換えることは、できるのか?
もちろん可能です!
ボディマップを書き換えるためには、身体の構造やサイズ、形などを意識しながら動くピラティス・ヨガなどのボディワークが非常に有効です。
ボディマップを明確にするために、まずは自身のセンターライン(正中線)を知ることが重要です。ストレッチポールに寝転んで、ゴロゴロするだけでもセンターラインを意識できますし、後述する背骨にフォーカスしたエクササイズも有効です。
ここでは、ラクロッサーに不可欠な胸椎回旋のためのエクササイズ、クロスのコントロールに必要な肩甲帯安定・上腕三頭筋のためのエクササイズをご紹介します。
どこの筋肉が使われているのか、どのように身体が動くのかを意識しながら実施しましょう。
ボディマップを修正するためのエクササイズ
胸椎回旋エクササイズ/ダイアゴナルソラシックカール
背骨をひねる回旋動作を腰から行ってしまう場合がありますが、実際には腰椎は回旋が不得意な背骨です。胸椎をしっかり使えるように鳩尾からひねる意識を持ちましょう。
背骨の構造のミスマッピングの修正だけではなく、腹筋群強化にも効果的です。
肩甲帯安定エクササイズ/レッグプルフロント
肩甲帯が不安定な状態では、クロスを使用する際に手首や肘で頑張ってしまうことがあり、怪我の原因にもなります。肩甲帯を安定させて体幹からクロスをコントロールできるようにしましょう。
プランクのポジションをキープするため、体幹を鍛えるのにも有効です。
決して腰がそったり、肩がすくまないように、脊柱のニュートラルポジションを意識しましょう。
上腕三頭筋エクササイズ/サイドゲットアップ
肩甲帯を安定させるためにも重要な上腕三頭筋(二の腕)、日常生活では腕の前側である上腕二頭筋(力こぶができるところ)ばかり使われることが多く、上腕三頭筋が弱くなることが多いです。上腕二頭筋ばかりが強いと肩が前突(いわゆる内肩)しやすく、そのままクロスを使うことで肩の前方に痛みが出る可能性があります。肩の位置に気をつけながら、上腕三頭筋を意識してエクササイズを行いましょう。
ラクロッサーのボディマップを獲得するには?
ラクロスも身体の一部ととらえて、クロスの先までの正確なボディマップを獲得し、パフォーマンスアップさせるといいでしょう。
指先までの正確なボディマップがあったとしても、クロスまでのリーチが理解できていなければ、ボールを操ることができません。
①周辺視野を広げる
前述した脳を安心させるためにも、周辺視野を広げることは大切です。スマホやパソコンを使うことが多い生活だと、注視することが多く脳が緊張状態になってしまい、結果として全身の筋緊張に繋がります。
周辺視野を広げるためには、散歩、クローリング(四つ這いで行なう「はいはい」)などが有効です。
歩きスマホは注視の原因にもなるので、目線を上げて周囲の景色を楽しみながら散歩しましょう。
クローリングは、目線が床に近づくために、立位での歩行に比べると視覚情報が多く入ってきます。カラフルな床を雑巾がけするだけで周辺視野を広げるトレーニングになりますよ!
②背骨の可動性を上げる
背骨の可動性がなく圧縮された状態になると、衝撃吸収をするサスペンションとしての機能が失われ、背骨の代わりに手足の筋肉を緊張させて衝撃吸収を行おうとします。
そのため、筋肉の内圧が高まり圧痛を感じるくらいに張った状態になってしまいます。
背骨の可動域を広げるためには、ピラティスが非常に有効です。
◆背骨の可動域を広げるために重要な要素
・リラクゼーション(緊張抑制)
・ブリージング(呼吸)
・エロンゲーション(軸の伸張、抗重力伸展)
・アーティキュレーション(背骨1つ1つをバラバラに動かす)
上記のどれかひとつが大事なのではなく、全てが統合されて背骨の動きが作られると考えてください。
アーティキュレーションをするためには、エロンゲーションが必要ですし、エロンゲーションを出すためには、呼吸が必要不可欠です。
また、筋緊張がある状態では適切な呼吸ができませんので、リラクゼーションは必須です。
というように、全ての要素が統合されることで、背骨の滑らかな動きができるようになります。
まずは、適切な呼吸ができる身体を作るために、緊張を抑制しましょう。
特に背面部の緊張が高く、呼吸をする際にどうしても首肩の緊張が高まったり、腰を反ってしまったりすることが多くあります。
【次ページ】背骨にフォーカスしたエクササイズをご紹介します
背骨にフォーカスしたエクササイズを実践してみよう!
背面部の緊張を抑制するエクササイズ/ウォールサポートリーチ
背面部の緊張が強いと前述した呼吸だけの問題ではなく、前腿も張りやすくなります。その状態では腿裏のハムストリング・殿筋群にスイッチが入りづらく、そのままだと後ろ脚で蹴り出して走ることができません。走る際に、常に腿上げをしている状態になったり、腰を反ることで脚を前に出そうとしたりと怪我に繋がりやすい運動パターンになってしまいます。
ブリージング、エロンゲーションエクササイズ/キャット&ドッグ
背骨一つ一つを引き離すイメージを持って行います。特に反る動きでは、腰だけで頑張ってしまうことが多く、そうなると背骨の圧縮力が強くなり逆効果になってしまうので気を付けましょう。背面部の緊張が強い場合は反る動きは行わず、背中を丸めたままで3〜4呼吸キープして、背面部の伸張を強調します。
アーティキュレーションエクササイズ/ロールアップ
いわゆる腹筋運動のように、反動をつけて行うのではなく、背骨一つ一つバラバラに動かす意識で行います。
両足が浮いてしまう場合は、背骨をバラバラに動かすインナーマッスルが使えず、大きく強いアウターマッスルだけを使っている証拠です。
まずは、背骨のエロンゲーションを出すウォールサポートリーチ、
キャット&ドッグを行い、背中を丸められるように背面部を伸ばしましょう。
まとめ
フェイントに振られない軸を作るために、ガッチリ固めた筋肉ではなく、必要最小限の筋力で動けるフレキシブルな身体を目指しましょう。
そのために、まずは自分自身を知ること、そして緊張を抑制することが重要です。
スマホやパソコンを使い続ける時間が多かったら、気分転換に外を散歩してみるだけでも緊張抑制には効果的です。
また、お手洗いに行くタイミングで、トイレの個室の壁を使ってウォールサポートリーチをするなど、普段の生活にも緊張抑制エクササイズを取り入れてみてくださいね。
リラクゼーションが疲労回復には必要不可欠です。トレーニングだけに集中するのではなく、日常生活でいかにリラックスできるかが、ケガのない競技生活を送る秘訣になるでしょう。
この記事を書いた人
ピラティス・ヨガ トレーナー 柴森雅子 Instagram: @boomkats_masako
運動経験がほぼない中、ピラティスに出会い、長年の悩みであった肩こり解消をはじめ、身体の変化を感じる。その素晴らしい体験を多くの人に伝えたいと思いピラティスの資格を取得。
その後、ピラティスを軸に呼吸療法、ヨガ、ムーブメントトレーニング、ウェイトトレーニングなどを学び指導の幅を広げる。
怪我のない日常生活・競技生活を送るための運動指導を目指し、日々学びを深める。
柴森雅子 Official Blog→https://ameblo.jp/boomkats/